私選名盤100選

061〜070


061  SEDAKA’S BACK/NEIL SEDAKA
       セダカズ・バック/ニール・セダカ(1974)
SEDAKA’S BACK
「恋の片道切符」や「カレンダー・ガール」ばかりがニール・セダカではない。彼は
60年代以降ヒットが出なくなり、70年代に入ってからイギリスに渡って当時飛ぶ
鳥落とす勢いだったエルトン・ジョンのバックアップを受け、アルバムを制作する。
そして、アメリカ発売用に編集されたのがこの『セダカズ・バック』で、この中の「雨
に微笑みを」が全米Y1ヒットになり、ニール・セダカは復活を遂げたのだ。ドラマ
チックな話であるが、このアルバムはソングライターとしてのニール・セダカの力
量が120%発揮された佳曲揃い、売れて当たり前と言ってもいい。よく聴いてると
恩人エルトンやG・オサリバン、R・ニューマンといった当時人気の自作自演歌手
の作風に近いものもあり、新しい感覚も彼はちゃんと持っていた。


062  BRIDGE OVER TROUBLED WATER/SIMON & GARFUNKEL
       明日に架ける橋/サイモン&ガーファンクル(1970)
BRIDGE OVER TROUBLED WATER
説明不要の名作。タイトル曲は大ヒットしてスタンダードとなり、日本でもいまだに
カラオケで歌われるくらいの有名曲だが、その他の収録曲も負けず劣らず名曲
揃いだ。個人的には「ボクサー」「ニューヨークの少年」といった、ちょっと寂しげな
曲にジーンときてしまうのだが、これまた有名な「コンドルは飛んで行く」のように
後のポール・サイモンのソロの方向性を暗示するような曲もあったりして、非常に
バラエティに富んだ内容だ。このアルバムを最後にS&Gは解散したが、後年ちょ
こちょこっと再結成したりしていた。が、アルバムはライブ盤以外作っていない。こ
んなすごい傑作を出してしまったのであるから、もうこの2人では何も作れない、な
なんて考えていたのでは、と想像してしまう位このアルバムは素晴らしい。


063  STILL CRAZY AFTER ALL THESE YEARS
     /PAUL SIMON
       時の流れに/ポール・サイモン(1975)
STILL CRAZY AFTER ALL THESE YEARS
ソロとなったポール・サイモンは、レゲエを取り入れたりマッスル・ショールズに出
向いて録音したり、と精力的かつ実験的な音楽活動を続け高い評価を得ていた
が、久々ニューヨークで録音したこのアルバムでグラミー賞を受賞した。スティー
ブ・ガッド、リチャード・ティーといったスタッフの面々をバックにしたこのアルバム
はちょっとジャジーな感じの、大人の音楽といった趣。マーティン・スコセッシの映
画を見るようだ、と言った評論家がいたが、冬のニューヨークといったイメージで
僕は行ったこともないニューヨークを想像して妙に憧れたものだ。ゆったりと流れ
るバックの音に、ポールのボーカルが冴え、実にいい雰囲気。再結成S&Gによ
る「マイ・リトル・タウン」も収録されており、これがまた素晴らしい。


064  A NEW FLAME/SIMPLY RED
       ニュー・フレイム/シンプリー・レッド(1989)
A NEW FLAME
80年代中期から雨後の筍のごとく出てきたUKソウルだが、そんな中で、このシ
ンプリー・レッドは他のバンドとは違うものを感じさせた。ボーカルのミック・ハック
ネルの独特の歌声によるものかもしれないし、ブラコン風ではなくジャズやブルー
スの香り漂うサウンドのせいだったかもしれない。「ホールディング・バック・ザ・イ
ヤーズ」の大ヒットを放ったデビューから3年、これは彼らの3枚目にあたる。アル
バムを重ねる毎に洗練されてきた彼らだが、ここでは最高にセンス良く、カッコ良
く、ムードたっぷりのシンプリー・レッド風ソウルを完成させている。正に夜聴くのに
ピッタリ。冒頭「イッツ・オンリー・ラブ」のイントロのミュートトランペットを聴いただ
けで、もうノックアウトである。ラストの「イナフ」も名曲。


065  GRAVE DANCERS UNION/SOUL ASYLUM
       グレイブ・ダンサーズ・ユニオン/ソウル・アサイラム(1992)
GRAVE DANCERS UNION
ソウル・アサイラムのコロンビア移籍後のアルバムは、どれも素晴らしく甲乙つけ
難いのだが、一枚選ぶならこれ。彼らが長い不遇の時を経て、ついにブレイクし
た記念碑的作品であるし、何と言っても名曲「ブラック・ゴールド」が収録されてい
るからだ。とにかく、前述のように売れない時期が長かったソウル・アサイラムだ
が、これ以前の作品との違いはバランスの取れたアルバム作りを心がけたことで
はないか。アップテンポのロックンロール曲と「ブラック・ゴールド」「ランナウェイ・ト
レイン」のようなアコースティックなミドルテンポの曲がバランス良く並んでいる。も
ちろん、ボーカルで全曲を手がけるデビッド・パーナーが気合い入れていい曲をた
くさん書いたことが、勝因であることは間違いない。


066  TRUE/SPANDAU BALLET
       トゥルー/スパンダー・バレエ(1983)
TRUE
音楽ビジネスの世界では、才能があっても売れない人もいるし、たった一曲のヒッ
トを残して消えていってしまう人もいる。かと思えば、大した才能はないが一枚だ
け傑作を残す人達もいる。言っちゃ何だが、このスパンダー・バレエもそういうバ
ンドだ。もともとニューロマンティックのダンス系としてデビューした彼らだが、一応
ヒットは出したものの、ダンス路線はこのバンド向きではなかった。技術レベルは
大したことないし、トニー・ハドリーのボーカルスタイルもダンス向きもではない。所
が、いきなり出たこのアルバムは素晴らしかった。まず曲がいいし、全体的に静
かなムードで歌を聴かせる方法が成功している。トニーのボーカルもはまった。案
の定、この後続かなかったがこれ一枚だけでも、名を残せて良かったのでは。


067  HOMEBELLY GROOVE/SPIN DOCTORS
       ホームベリー・グルーブ/スピン・ドクターズ(1992)
HOMEBELLY GROOVE
ファンキーなロックと泥臭いロックが、このバンドの2枚看板であった。このライブ
盤では、スピン・ドクターズのカッコ良さが80分近くに渡って楽しめる。昨今の変
に作り込まれたようなライブ盤とは違い、観客の反応もよく分かりとても緊張感に
溢れたライブになっている。今時珍しく長々とインプロビゼーションもやっていて、
その為一曲の演奏時間が長い。要するに、あまり今風ではないのだが、そんなこ
とはどうでも良くなってしまう程、ここでの演奏は凄い。一度生で見たいバンドだっ
た。一曲目からギターのファンキーなカッティングが始まると、そのまま最後まで
一気に突っ走る。曲は長いが長く感じさせない。メンバー各々の技量も確かで、
安定していながら、クールにホットに展開される演奏はほんとスリリング。


068  KATY LIED/STEELY DAN
       嘘つきケティ/スティーリー・ダン(1974)
KATY LIED
スティーリー・ダンはドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーの2人から成るユニ
ットで、ライブはほとんど行わずレコーディンクのみに命を賭けていた。要するに
80年代以降多く見られるようになったユニット系グループのはしりな訳だが、今
のように打ち込みで音楽が作れる時代ではなく、スタジオミュージシャンをたくさん
集めて、自分達のアイデア通りの音を作っていくしかなかったのであるから、当然
アルバム制作に金も時間もかかった訳である。また、彼らのアイデアは非常に先
端を行っていたので、それに応えられる優秀な人でなければ使えなかっただろう
から、その苦労は想像にあまりある。で、このアルバムだが、ヒット曲こそないが、
スティーリー・ダンの洒落た世界が十二分に楽しめる。


069  FLY LIKE AN EAGLE/THE STEVE MILLER BAND
       鷲の爪/スティーブ・ミラー・バンド(1976)
FLY LIKE AN EAGLE
もともとサンフランシスコのブルースシーンで活動していた人で、その昔ボズ・スキ
ャッグスも彼のバンドに在籍していた。このアルバムは、ブルースを根底に置きな
がらも、3曲のシングルヒット(内一曲は全米Y1)を生んだことでも分かるように、
ポップな感覚に溢れ、とても聴きやすい好盤である。当時大ベストセラーとなり、
ベテランによるヒットということで、ピーター・フランプトン、フリートウッド・マックと
共に3大サクセスなどと言われたりした。この3組に共通するのはベテランという
ことだけでなく、それまでよりもっと高い年齢層にも受け入れられる大人のロック
をやっていたということだろう。ロックは若者の物、という概念がこの頃から壊れ
はじめたように思う。ともあれ、センスの良い音作りは正に大人の為の音楽だ。


070  FOOT LOOSE & FANCY FREE/ROD STEWART
       明日へのキックオフ/ロッド・スチュワート(1978)
FOOT LOOSE & FANCY FREE
ロッド・スチュワートといえば、マーキュリーでソロ活動をしていた時が一番良かっ
た、とファンの人は必ず言う。が、それほど熱心にロッドを聴いていた訳ではない
僕のような者からすれば、アトランティック移籍後の方が選曲に幅があり、音も微
妙に洗練されて、聴きやすいと思う。特にこのアルバムと前作の『ナイト・オン・ザ
・タウン』あたりは傑作ではないか。この『明日へのキックオフ』から、バンドにカー
マイン・アピス、フィル・チェンといった腕利きが参加し、パワーアップしたバンドサ
ウンドにロッドもノリにノッている、という感じで素晴らしい。「ホット・レッグス」のよ
うなロックンロールもいいが、B面のバラード連発がまたよろしい。余計なものに
色目使わず、ロック一筋のロッドはこのアルバムが最後だったのだろうか。


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