私選名盤100選

051〜060


051  LADIES OF THE CANYON/JONI MITCHELL
       レディース・オブ・ザ・キャニオン/ジョニ・ミッチェル(1970)
LADIES OF THE CANYON
ジョニ・ミッチェルは元々フォークシーンから出て来た人らしいのだが、除々にジャ
ズ畑の人達との交流を深め、独自の世界を確立していく。このアルバムは、まだ
フォークのイメージが強い頃のもので、ほとんどの曲は彼女のギターあるいはピ
アノの弾き語りによるものだ。「ウッドストック」「サークル・ゲーム」といった有名曲
が多いせいか、聴きやすくまた飽きがこない。あの独特のコード進行や歌詞とい
ったジョニ独特の世界が既に出来上がっているようだ。彼女は現在活躍している
女性ロックシンガー達のパイオニア的存在であり、彼女なくして後進達の成功は
あり得なかったとすら言われている。シャウトしたり早弾きしたりしなくても、女性
がロックの世界でやっていけることを、ジョニはこの時既に証明していたのだ。


052  THE WILD HEART/STEVIE NICKS
       ワイルド・ハート/スティービー・ニックス(1984)
THE WILD HEART
フリートウッド・マックの中では、この人がソロで一番成功した。このアルバムは彼
女にとって2枚目のソロアルバムである。前作『麗しのベラドンナ』が大ベストセラ
ーとなったが、あまりにカントリー臭い作風が今ひとつ気に入らなかった僕として
は(カントリーが嫌いな訳ではない)、こちらのアルバムの方がスティービーらしい
と思う。あの靄のかかったようなサウンドに、鼻にかかった声、これは正にスティ
ービー・ニックス独特の世界である。曲も彼女のイメージそのままで、要するにど
こを切ってもスティービー、なのである。彼女の声とサウンドに酔いつつ、ラストの
「美しき野獣」で完全にとどめをさされてしまう。ジャケットも含め、妖精スティービ
ー・ニックスにはどんな男も骨抜きだ。


053  NEW YORK TENDABERRY/LAURA NYRO
       ニューヨーク・テンダベリー/ローラ・ニーロ
NEW YORK TENDABERRY
ローラ・ニーロは自身の作品はあまり売れなかったけど、他人がカバーしたローラ
の曲にはヒット曲が多い。ソングライターとしては、とても優れていたということだ。
ローラ・ニーロはニューヨーク出身、幼少の頃から、路上でR&Bを歌って大きくな
ったということだが、その音楽には確かにその影響が感じられる。しかし、ローラ
の音楽を聞いているとそれ以上に、聴く者の心をわし掴みにするような激しいもの
を感じる。このアルバムなど、その典型的な例で、本人のピアノ弾き語りによるシ
ンプルなサウンドが中心なのだが、それだけにその歌が胸に迫ってくる。見かけ
は穏やかだが、激しく心をゆさぶるのだ。歌詞もさることながら、ローラの内側か
ほとばしる叫びのようなものが、聴く者にも対峙する覚悟を要求する。


054  VS./PEARL JAM
       VS./パール・ジャム(1993)
VS.
パール・ジャムは90年代において最も重要なロックバンドである、と言ってしまっ
ても良いだろう。若者の代弁者として圧倒的な支持を集め、チケット代金が高過
ぎるとして、大手チケット販売会社と闘争を続けていたのは記憶に新しい。ただこ
れが現状を打破するまでには至らず、単に話題を提供するにとどまってしまった
のは残念だ。言い換えれば、ロックビジネス界の現況は一人気バンドが窮状を訴
える位では、どうにもならない所まで肥大化しているという事なのだろう。常識を打
破するべく生まれたロックが、社会常識に取り込まれ単なる娯楽に成り果ててい
る、という現実を真剣に受け止めパール・ジャムは闘い続けるのだろう。好き嫌い
はともかく、その姿勢は素晴らしい。音楽も正に王道を行くロック。


055  THE DARK SIDE OF THE MOON/PINK FLOYD
       狂気/ピンク・フロイド(1973)
THE DARK SIDE OF THE MOON
まきれもなく、ロック界が誇る名盤である。今ほどテクノロジーの発達していない時
代に、これだけ先鋭的なアイデアに溢れたアルバムを作り上げたことは、驚異で
すらある。ピンク・フロイドというバンドは、前衛という言葉でくくられる事が多いが
ただの前衛ではここまで感動的な音楽は作れない、と思う。ミュージシャンに必要
な演奏力、作曲能力、アイデア、イメージ戦略、そのすべてが最高のレベルで結
実し、このアルバムが生まれたのだ。SEから始まり、「生命の息吹き」につながる
オープニングは感動的だ。ドラマチックな「虚空のスキャット」を経て、B面のラスト
まで続いていく美しくも狂おしい世界は、今もなお色褪せない。内なる狂気、をテ
ーマにした歌詞と共に普遍性を保ち続けている。名作。


056  PRETENDERS K
       プリテンダーズK(1981)
PRETENDERS U
クリッシー・ハインドは文句なしにカッコいい。男が見てもそう思うのだから、女の
目からすればなおさらだろう。このアルバムは、ブリテンダーズの初来日公演の
直前に出たもので、ファーストが成功したことによるブレッシャーなど微塵も感じさ
せない力作だ。確かに、パンク以降のニューウェイブ旋風の中から出てきたバン
ドではあるが、単なるビートバンドとはひと味違う個性を感じさせた。それがクリッ
シーによるものであるのは明らかで、この後幾度もメンバーチェンジをするが、イ
メージが変わることはなかった。このアルバムでもクリッシーは全開で、「メッセー
ジ・オブ・ラブ」や「トーク・オブ・ザ・タウン」でそのカッコ良さを見せつける反面、「
アイ・ゴー・トゥー・スリープ」では泣かせる。稀有な存在だ。


057  SHEER HEART ATTACK/QUEEN
       シアー・ハート・アタック/クイーン(1974)
SHEER HEART ATTACK
僕にとってはクイーンのアルバムはどれも名盤なのだが、一枚選ぶとなるとこれ
だろう。彼らにとって3枚目にあたるが、前2作で見せた曲作りのうまさと、高度な
演奏技術、そして緻密に構築されたアルバム制作のアイデアを、このアルバムで
よりポップな方向に昇華させ、新たなイメージとファンを獲得した。ここでは今まで
見せなかった様々な音楽性の曲がバランス良く配置され、常に聴く者の耳を刺激
する。そして、B面後半の盛り上がりは圧巻だ。タイプの違う曲が組曲風につなが
っていく様子はビートルズの『アビー・ロード』を連想させる。僕は常々、クイーンは
ツェッペリンのフォロワーではなく、ビートルスの後継者ではないかと思っていたが
、その印象はこのアルバムで作られたと言っていい。


058  BLACK AND BLUE/THE ROLLING STONES
       ブラック・アンド・ブルー/ローリング・ストーンズ(1976)
BLACK AND BLUE
最初にストーンズに接したのが、このアルバムだった。だからという訳ではないが
、70年代のストーンズのアルバムの中では『スティッキー・フィンガーズ』と双璧を
成す傑作と言っていいのではないか。音楽性はやや違うが。一曲目の「ホット・ス
タッフ」のギターのカッティングにまず度肝を抜かれ、隠れた名曲「メモリー・モーテ
ル」に聞き惚れる。B面頭の「ヘイ・ネグリータ」に圧倒され、ラストの割とオーソド
ックスな「クレイジー・ママ」でストーンズらしく締める。全編に漂うファンキーな香り
に僕は完全にノックアウトされてしまったのだった。しかし、今聴いてみるとやはり
ストーンズのアルバムとしてはやや異質な部類かもしれない、という気はする。少
し洗練された感じがするせいだろうか。しかし、名盤には違いない。


059  HASTEN DOWN THE WIND/LINDA RONSTADT
       風にさらわれた恋/リンダ・ロンシュタット(1976)
HASTEN DOWN THE WIND
ウェストコーストの歌姫、リンダ・ロンシュタットがカントリー一本槍から脱皮した印
象を与えたのが、このアルバムではないか、という気がする。確かに、既に「悪い
あなた」という全米Y1ヒットを出してはいたが、ここではこれまでになかった人の
作品を取り上げ、シンガーとしての領域を拡げているように思う。とはいえ、ウォー
レン・ジボンやカーラ・ボノフ(リンダが曲を取り上げたことで有名になった)といっ
た人達の曲に混じって、「ザットル・ビー・ザ・デイ」をめちゃくちゃカッコ良く聴かせ
るあたりがリンダらしい。この人のアルバムは、いつも選曲がカギになるように思
う。もともとうまい人だけに、いい曲さえ揃えれば出来はいい物になる。そういう意
味では、文句なし。名曲揃いでリンダのベスト作。


060  MOVING PICTURES/RUSH
       ムービング・ピクチャーズ/ラッシュ(1981)
MOVING PICTURES
超絶技巧集団ラッシュの、プログレハードロックトリオとしては最後のスタジオ録音
盤。前作あたりから大作志向が薄れ、コンパクトにまとめた曲が多くなってきたが
それでもそのテクニックは変わらない。だいたいニール・パートとかは人間じゃな
い、と思う。「トム・ソーヤー」とかを聴いてみれば分かるが、とにかく並ではない。
他の2人も当然テクニシャンで、このアルバムの「YYZ」みたいな曲までライブで易
々とやってしまうのだから恐れ入る。音楽的にも、大衆に迎合しない、大人しく聴く
ことを要求しているような感じで、思わずひれ伏してしまう。こんなアルバムが売れ
たのだから、やはりいい時代だったのか。また、ラッシュの場合、出来やしないの
に何故かコピーしたくなるのである。何か刺激されるものがあるのだろうか。


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