![]() ![]() ![]() ![]() | エルトン・ジョンはヒットチャートにおいて、大変な記録を2つ持っている。ひとつは、1970年の「僕の歌は君の歌」から1999年の「リトゥン・イン・ザ・スターズ」に至るまで、30年連続で全米TOP40に入るヒット曲を出しているということ。浮き沈みの激しいポップス界において、これは大変な事である。良い曲を出し続けることはもちろんだが、運とか時代性とかにも大きく左右される。そしてもうひとつは、ビルボードアルバムチャートで初登場Y1を記録した初めてのアーティストである、ということ。これは、しかも2枚連続というおまけ付きだ。この記録は1975年、『キャプテン・ファンタスティック』と『ロック・オブ・ザ・ウェスティーズ』の2枚によって達成された。この頃、エルトンは人気の絶頂にあり、出す曲出すアルバム全てが大ヒットするという追い風の中で、初登場1位は達成された訳だが、特筆すべきは2枚連続、それも同じ年である、ということである。これ、どちらもオリジナルアルバムで企画物とかではない。アルバムとアルバムのインターバルが2〜3年開くことが当たり前の現在の感覚からすれば、同じ年に2枚のオリジナルアルバムを出し、それがベストセラーとなるだけの内容を持っていた、というのは驚異であろう。しかも、エルトンは70年代前半にはずっとこのペースで創作活動を続けていたのである。何度も言うが、すごいことだ。 以上2つの記録から、かつてのエルトンのすごさ、そして現在に至るまでのすごさが分かってもらえると思う。ただ、そういったヒットチャート上の記録が、彼が素晴らしい音楽を作り続けてきたからこそ達成できたのだ、ということは言うまでもない。エルトン・ジョンは間違いなく20世紀が生んだ偉大な音楽家の一人である。 ただ、30年連続TOP40ヒットという実績からは想像しにくいだろうが、彼ほど長い音楽活動の間に何回かの浮き沈みを経験した人も珍しいのでは。御存知の通り、エルトンは詩人バーニー・トーピン、プロデューサーのガス・ダッジョンとタッグを組み、レコードを作り続けてきた。前述の2枚を含む70年代半ばまでの作品は、ほとんどこのチームによるものだ。しかし、彼は1976年の『蒼い肖像』を最後に、このチームを解消する。深い事情は知らない。いつも同じ顔ぶれ(バンドも含む)で、しかもハイピッチでレコードを作り続けるのに疲れたのではないか、と僕は勝手に想像するが、この後しばらくの彼の迷走(?)ぶりは仲々凄まじい。違う作詞家と組んで曲を作って、セルフプロデュースでアルバムを出したりはいいが、一シンガーとしてフィリーソウル、ミュンヘンディスコ、フレンチポップス等々にどっぷり漬かったアルバムを連発した頃は、エルトンがおかしくなったと変に評判になったものだ。このまま、迷走を続けて彼は消えていってしまうのか、と思わせもしたが、80年代に入ってから彼本来のスタイルを取り戻し、バーニーとのコンビも復活させて古くからのファンをほっとさせた。しかし、この迷走期(1978年〜1981年)に彼はどんなことを考えていたのだろう。その事について、彼自身が語った物を見てないので、全くもって謎である。僕も実は長いことこの時期のアルバムは聴いていなかったのだが、2年程前にまとめて買い込み、じっくりと聴いてみた。今となっては悪くない。無論、新作を楽しみにしている時にミュンヘンディスコなど聴かされれば頭にも来るだろうが、彼の長いキャリアの中で見れば、イメージと違う事をやるのも必要だったのだろう、と好意的に解釈するしかない。イメージと違うとはいえ、作品そのものはよく出来ているし、ボーカリストとしてのエルトンも再発見できるし、腐ってもエルトン、さすがと納得してしまうだけのクォリティは保っている。 エルトンは割と最近、インタビューで70年代及び80年代はドラッグ漬けであったことを告白している。90年代に入ってから治療を受けたそうだ。また、彼は一度だけ結婚しているが、これはゲイであることを隠す為の偽装であった、とも認めている。こういった事実はしばしば彼の神経を蝕み、廃人同様になったこともあるらしいが、音楽をやること、レコードを作りツアーに出ることで乗り越えてきたそうだ。音楽がなければ、今頃死んでいただろう、と彼は言う。親しい友人たちの死もたくさん経験したが、音楽が忘れさせてくれた、とも言っている。僕が彼の音楽を聴いて感動するのは、この発言からも分かる通り、音楽がやれることの喜びが伝わってくるだろう。 冒頭に書いた、30年連続TOP40ヒットはエルトン・ジョンという才能豊かな音楽家が、様々な浮沈を経験しながら達成した記録だけに、とてもドラマチックなものを感じる。エルトンの前の記録保持者はエルビス・プレスリーで、その死により記録は途切れた。エルトンが継続中の記録はエルトン・ジョンがこの世にある限り、更新されていくだろう。これからも、彼の音楽を聴き続けていけることを、僕は素直に喜びたい。 | ![]() ![]() ![]() ![]() |