MFCオーナーの映画ファイル


File 37

天国の門(1981年・アメリカ)
HEAVEN'S GATE
監督: マイケル・チミノ
音楽: デヴィッド・マンスフィールド
出演: クリス・クリストファーソン、クリストファー・ウォーケン、ジョン・ハート、イザベル・ユペール
    ジェフ・ブリッジス、サム・ウォーターストン、ブラッド・ドゥーリフ、ジョセフ・コットン

人の棲むところには煙が立つ。

タバコの紫煙から夕餉の仕度、そして雑踏が巻き起こす思わず目をこすりたくなる砂煙
...そして、停車場に着いた機関車が吐き出す黒煙は、世界のすべてを嘗め尽くそうと
のた打ち回る。

天国の門。一人の監督と老舗の映画会社を生贄に打ち建てられた、西部劇の墓碑銘。

ハリウッド80年の歴史が築き上げた「物語のツボ」や、題材となったジョンソン軍戦争の
「史実」を踏み倒してまで、監督マイケル・チミノを突き動かしたものは何なのか。

答えは煙にある。移民/牧場主側を問わず、あらゆる場面に様々な形で現れる「煙」こそ
が本作の主人公だ。その正体は体からあふれ出した人間のどす黒い欲望であり、やるせ
ない宿業だ。それをがっしりと受け止めるワイオミングの大自然との鮮やかな対比は、
否応なくヒトの矮小さを心に刻み込む。それは辛く、切なく、そして愛おしい。だからこそ
最後まで見届けられる。冒頭の豪奢な舞踏会、雇われガンマン役のクリストファー・ウォ
ーケンの笑顔、そしてジョン・ハート演ずる牧畜協会のやり方に同調できず、世を拗ねて
酒に溺れた男の「死の舞踏」...ひとつひとつのシーンが、忘れられない。

でも、今の映画マスコミの手にかかったらイザベル・ユベールの女っぷりが取り上げられ
て終わりなんだろうなぁ。

余談。本作の主演俳優、クリス・クリストファーソンはご存知のとおり本業はカントリー
歌手であり、音楽全体を担当したデヴィッド・マンスフィールドら彼のバックバンドもバンド
マン役で出演している。ジェリー・マギー(現ベンチャーズ)のアコーディオン捌きを始め、
そういう面でも見所たっぷりだ。バーテン役のジェフ・ブリッジスもトライアングルで参加
してるぞ!!

<fxhud402さん 投稿日2005.10.24>


File 38

マーフィの戦い(1971年・イギリス)
MURPHY'S WAR
監督: ピーター・イエーツ
音楽: ジョン・バリー
出演: ピーター・オトゥール、シアン・フィリップス、フィリップ・ノワレ、ホルスト・ヤンセン、ジョン・ハラム

この映画の存在をはじめて知ったのは今から遡ること15年前、ある雑誌のイギリスと
イギリス人に関する対談記事を読んだのがきっかけだった。その雑誌は当時高校生
だった僕にその後の価値観を決定付けるほどの影響を及ぼしていたのだけど、その対談
記事はその中でも一頭地を抜いた存在だった。鈴木正文、そして坂本正治。この二人の
悪魔の囁きがなければ、おそらく現在の自分はない。

それはともかくとして、その記事の中で本作はこのように紹介されていた。

「"マーフィの戦い"ほど、イギリス人の熱狂を、そのアホらしさの果てまで分かりやすく
描いたものはない...」

今回、一昔以上経った今になってこの映画を見るにあたり、どうしてもそれがこの文言の
真偽を確認する行為になってしまったことをご容赦いただきたい。

そして現に本作はそういう内容だったのだ。

第二次世界大戦も末期、イギリスの商船で護衛に当たる英軍の飛行艇の整備士をして
いたマーフィは、南米オリノコ河河口を航行中にUボートに襲われ、ただ一人生き残りと
して現地人の村に流れ着く。村に住む女医さんの看病で健康を取り戻し、港を管理する
船乗りルイという友人もできるが、続けて救助された飛行艇のパイロットをドイツ兵に
殺されたのをきっかけに、くすぶっていた復讐の炎が燃え上がる...。

というと大変シリアスな物語のように思えるのだが(実際シリアスな話なのには違いない)、
実際は一種のブラック・コメディを見ているような印象が漂う。なにしろ、マーフィは整備士
であっても戦争のプロではない。ズブの素人なのだ。飛行機の操縦も見よう見まね。
ガソリンを詰めた火炎ビンぐらいでUボートが沈められるわけがない。しかし、仲間を
皆殺しにされた恨みと、復讐の手段を得た喜びは、強い酒をチャンポンで呑んだかの
ごとく、この男をハイな精神状態へと引き上げていく。そして、そのテンションは結末まで
脇目も振らず上がり続ける。周囲を容赦なく巻き込みながら...。本作のハイライトはそれ
に目覚めた瞬間、潜伏しているUボートの位置をつかみ(もちろんドイツ側にもばっちり
見つかっている)、意気揚々と帰途に着く(錐揉み宙返りまで決める)マーフィの表情
だろう。

本作はその題材から、兵器・軍隊ものファンの間では有名な存在のようだ。また、宮崎駿
の「紅の豚」にも強い影響を与えたようだ。しかし最後は素手の殴り合いになる紳士的な
ラストの「紅の豚」と違って、本作はけして英雄譚ではない、ただただはた迷惑なおっさん
の話である(それを演じるのがかつて「アラビアのロレンス」を演じたピーター・オトゥール
なのが、いかにもイギリス的諧謔)。そんな男に付き合いながらも、最後には失望して離れ
ていくルイ(演ずるはフィリップ・ノワレ)の表情も忘れられない。そしてその無残で呆気
ない最期までその目を逸らさない製作陣の熱情こそが、本作をあの記事に取り上げさせ
たのだ。

ちなみに、物語の途中...村が再びUボートに襲われ、飛行艇が破壊された直後...に
ラジオからいわゆる玉音放送が流れ、第二次世界大戦は終わる。村人が、ドイツ兵が、
女医さんが、そしてルイが必死で呼びかける。

「マーフィ!!終わりだ!!戦争は終わったんだ!!」

しかしマーフィは事もなげに返す。

「俺のはまだだ」

狂っている?その通りだ。しかし、それが人間ってもんじゃないか!

<fxhud402さん 投稿日2005.11.18>


File 39

銀河鉄道999(1979年・日本)
監督: りんたろう
音楽: 青木望、ゴダイゴ
声の出演: 野沢雅子、池田昌子、田島令子、肝付兼太、富山敬、久松保夫、麻上洋子、小原乃梨子
       柴田秀勝、来宮良子、井上真樹夫

世代的にアニメブームの中心世代なだけに、アニメは映画、TVを問わずかなり観たほう
だと思う。ヤマトやガンダムが社会現象となり、アニメージュを筆頭にアニメ雑誌なるもの
がガンガン創刊されていった時代である。本作はそんななかでも個人的に最高作である
と断言したいくらいの出来なのである。ガンダムの続編がいくら作られようが、エヴァヲタ
が増殖しようが、千と千尋がオスカーをとろうが、オーナーさんがラピュタを絶賛しようが、
こればっかりは譲るわけにはいかない。

銀河の彼方から999が迫ってくるオープニング、城達也の落ち着いているが力強いナレ
ーション、音楽の盛りあがったところで地球をバックに浮かび上がるタイトル。もうこれ
だけでロマン溢れる世界へどっぷりはまってしまう。年齢設定が少しあがりかっこよくなっ
た鉄郎。美しすぎる永遠の年上姉さんメーテル。儚げで憂いのあるクレア、相変わらず
アフォな車掌。そしてかっこよすぎるハーロック、エメラルダス、トチロー。もう原作者の
松本零士のこだわり炸裂なのである。色々なエピソードを織り交ぜながら一瞬たりとも
見逃せない演出をした、りんたろう監督をはじめ、作画の小松原一男、美術の椋尾篁、
素晴らしいスコアを提供した青木望、等々スタッフ陣も文句のつけようがないくらい素晴ら
しい仕事っぷり。聞いてるだけでワクワクしてしまうテイキングオフと、ラストで絶妙のタイ
ミングでかかる大ヒットしたタイトル曲を作ったゴダイゴ。乗りまくっている充実の声優陣。
どうです、文句はいわせない。(笑)ちなみに、1979年度邦画年間収入第一位なんです
よ。(ほーらね)

<いまちさん 投稿日2005.11.23>


File 40

さよなら銀河鉄道999−アンドロメダ終着駅−(1981年・日本)
監督: りんたろう
音楽: 東海林修
声の出演: 野沢雅子、池田昌子、麻上洋子、肝付兼太、井上真樹夫、田島令子、富山敬、来宮良子
       森山周一郎、江守徹

前作で謎を残したままであったメーテルの謎を明かすという基本的なスタンスのもとに
制作された完結編(一応ね、大体エターナルファンタジーって・・・もうばかばか〜)という
ことになってはいるのだが、実は大して明かしてなくて、無理やり1000年女王にこじつけ
た感もあり、そこがまた謎になってしまった気がする。で、この作品。オープニングから
鉄郎が再び999に乗り込み地球をあとにするところまでなら、前作を超えている、という
か、はっきりいって地上最強の出来である。(あくまで個人的な意見ですが、これも譲れ
ない。)真っ暗な画面を走るレーザーの弾道、疲れきった人間達、そして若干ワイルドに
なった鉄郎。動乱の時代が来た、というすごみのある演出。また暗くなり絶妙のタイミング
で現れるAdieu Galaxy Expressという美しいレタリング。ここから旅立つまでは、映像、
演出、音楽、と正に三位一体、見事としかいいようがない。ここを観るためだけに前作を
見ろといっても言いすぎではない。森山周一朗演じる老パルチザンは渋いし、相変わらず
車掌はアフォだし(笑)。

遂に鉄郎が999に乗り込み旅立つ場面は、そのなかでも秀逸のひとこと。バックに流れ
る音楽は、メインテーマ。音楽監督の東海林 修は流石に才能がある。とにかくこの音楽
と映像のマッチングは見事である。そして老パルチザンの名セリフにしびれ(涙)、それを
受けての鉄郎のなんともいえない憂いのある表情。素晴らしすぎる。と、ここまでは絶賛
し放題なのだが・・・メーテルとの再会シーンは期待しすぎた。メタルメナ、ミヤウダーと
いった脇役陣もとってつけた感じだし、ハーロックもエメラルダスもちょいと絡みすぎの
感がある。最終的の鉄郎がいかなくても大アンドロメダ滅びるやんって感じだし。しかし
ラスト、戦いのうた。それに絡む城達也の簡潔なナレーション、ラストなのにワクワクして
しまう。SAYONARAという曲は蛇足っぽいけど、名曲ではある。エンディングクレジットで
前作のシーンがセピア調の色彩で流れたときは泣けた。ちなみにターミネーター2制作時
ジェームスキャメロン監督はレジスタンスのシーンの参考にしようと、本作を見まくった
らしい。まあ、文句も書いたけどアニメージュのアニメ大賞受賞作品なのだよ。そこんとこ
勘違いしないように願いたい。

<いまちさん 投稿日2005.11.23>


File 41

街の灯(1931年・アメリカ)
CITY LIGHTS
監督: チャールズ・チャップリン
作曲: チャールズ・チャップリン
音楽: アルフレッド・ニューマン
出演: チャールズ・チャップリン、ヴァージニア・チェリル、フローレンス・リー、ハリー・マイアーズ
    アラン・ガルシア、ハンク・マン、ジョン・ランド、ヘンリー・バーグマン、アルバート・オースチン

チャップリン作品が余り面白くないという人は大抵笑えないということが多い。つまり、
がははは、と笑えないということらしい。笑いの質なんぞ、その時代時代によって異なると
いう気がする。とはいえ、自分もチャップリン作品をみて、大笑いするかというと、そんな
こともなく、レビューで抱腹絶倒!なんて言葉を見つけると、ほんまかいな?という気もする。
しかし、チャップリンはそれでいいのだ。バカ笑いするわけではないが、なんか可笑しい。
この次はこうなるだろうな、なんて思っていると見事にその通りになったりする。そのクス
クス感が大好きなのだ。だからといってチャップリン作品をコメディー映画なんていうワク
にはめてしまうのは大馬鹿野郎この上ない。それは本作を見れば痛感するであろう。

長くなった。さてこの作品、個人的にはチャップリンの最高傑作と推している作品。(あくま
でも個人的ね。とかくチャップリンの場合は最高傑作は?なんていう問いには議論噴出
ですからねぇ)すれた現代人からすれば、ストーリーは陳腐にうつるかもしれない。ご都合
主義満載といわれても、目をつぶるしかない。それは100歩譲ったとしても、全く色あせ
ないのはチャップリンのすさまじいまでの役者としての技量である。

サイレント映画であるからして、セリフはなく少しの字幕のみ(まあ、この字幕でさえ泣か
せるのだが。)ボクシングシーンの計算された動き、富豪とのおバカなやりとり、そして
ヒロインをみつめるなんとも優しい眼差し。前編に渡って素晴らしすぎる。

よく言われるように、このサイレント映画の見所は、まず、盲目の少女がどうやって花を
買った浮浪者を富豪と間違えることが出来るのか、
ラストシーンで目が見えるようになったヒロインがどうやって目の前のズタボロの浮浪者が
自分の恩人であると気づけるのか、この2点であろう。チャップリンもこの2シーンはかな
り苦労してたらしいが、見事に解決している。
そして刑務所から出てきた浮浪者のなんともいえない哀愁漂う姿。ただ歩いているだけ
なのになんでこんなに胸をうつのか。あの悲哀こそがチャップリンなんだな。ここがそこら
辺の映画とは本質的に違うのだ。

ヒロインを演じるのはヴァージニアチェリル。
この人クランクインするまでは素人だったらしいけど、ラストで見せる渾身の演技は圧巻。
この微妙な演技、表情は言葉では表現できないくらいすさまじい。この演技は本作品を
語りある上でも重要なポイントなのだ。
そして、私は何度みてもラストシーンには涙を禁じえない。未見のかたは是非鑑賞して
いただきたい。サイレント映画なんて、とはいわず是非この70年以上前に作られた極上
の作品を堪能していただきたい。至福の70分となることをお約束する。

そして、鑑賞後このように思われるのではないかな?
人に優しくなれる気がする、と。

<いまちさん 投稿日2005.12.5>


File 42

伝説巨神イデオン〜接触篇・発動篇(1982年・日本)
監督: 滝沢敏文
音楽: すぎやまこういち
声の出演: 塩谷翼、田中秀幸、白石冬美、井上瑤、松田たつや、佐々木秀樹、戸田恵子、林一夫
       麻上洋子、柴田秀勝、山田栄子

この度めでたく再発売となるこの作品。
正直いって前に買わなかったのをずーっと後悔していた。オークションとかでビデオが6万位の高値がつくし。
さて、このイデオンという作品。
TVシリーズが結局視聴率が悪いということで打ちきりになり本来描かれるはずであった結末とは違う形で終わってしまった。
よって富野監督はガンダムで成功した勢いで映画を製作。とはいえ本人はイデオンの結末を描きたいという理由でガンダムを作ったといっているけど。本来は別々に公開しようとしてたらしいが、接触編がこけると発動編がお蔵いりになってしまうのを恐れたのでダブルリリースという形をとったらしい。両方あわせて3時間という大作。
まあ、接触編はTVシリーズのダイジェストであるので、TVシリーズを見ているか雑誌等で基本的な情報を見たりしていないと正直訳がわからない。面白そうだからと気軽に劇場に足を運ぶと大変苦労する作品である。
しかし発動編はそれを補ってあまりある、凄まじい作品となった。
異性人同士の戦争(本人たちは望んでないんだけど)というシチュなので大量のひとが死ぬのだけど、メインキャラの死に方が尋常な描かれ方ではない。
いきなりキッチキッチンという萌えキャラの生首が画面を横切るし、アーシュラなんて首を吹っ飛ばされるわ、ベスは顔が引き裂かれるわ、カララは顔面に3発撃ち込まれるわ、カーシャは無数の鉛のツブを全身にうけてぶっ飛ばされるわ、ドバは反乱兵にあごの下から撃たれて鼻から血を噴出して宇宙に飛んでいくし、いやいや悲惨なことこの上ない。ただ、大抵のアニメのメインとなるキャラは死ぬ前になんだかんだと台詞をいううことが多いのだけど、イデオンでは一瞬にしてこととぎれてしまう。
まあ、ラストには救いがあるのだけど、劇場では結構みんな唖然として観ていた。
ただ、そういうの表現方法をしたというだけで、こういうのがメインではないのは当然。
質の高い作画(ただ湖川さんのキャラは妙にカクカクしていて人間臭くてそんなに好きじゃないんだけどね)や演出もさることながら、各キャラから吐かれるセリフが異常に迫力があり圧倒的な説得力をもっていることが凄い。
実写も含めセリフにこんなに説得力がある作品を他に知らない、といってもいい位。勿論声優陣の演技も素晴らしい。
オープニング、キッチンを失ったコスモが、バッフクランめーと絶叫する姿にオーバーラップして下から現れるTHE IDEONというタイトルの挿入のタイミングの見事さ、そのバックに流れる悲壮感漂う音楽。ここでやられましたわ。
ラストはなんでみんな裸なんだ、という気もするけど、まああれはあれで救いがあって良かったんじゃないかと。
ただこの作品は気軽に観るものではない。結構真剣に観ないといけないのだ。


<いまちさん 投稿日2006.4.30>