MFCオーナーの映画ファイル


File bP

荒野の七人(1960年・アメリカ)
THE MAGNIFICENT SEVEN
監督: ジョン・スタージェス 
音楽: エルマー・バーンスタイン 
出演: ユル・ブリンナー、スティーヴ・マックィーン、チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーン、
    ロバート・ヴォーン、ホルスト・ブッフホルツ、ブラッド・デクスター、イーライ・ウォラック

僕が映画について語る時、『荒野の七人』は避けて通れない。小学校の終わり頃から
中学にかけて、僕は映画ばかり見ていた(もっぱらテレビでだけど)時期があるが、その
きっかけになったのが、この『荒野の七人』なのである。

とにかく面白かった。ストーリーも単純明快。黒沢明監督の『七人の侍』のリメークだと
いうのは有名な話だけど(初めて見た時にも、テレビの解説者がそう言ってた)、本家より
もさらに分かりやすく出来ている。ガンマンたちもカッコいい。風体やピストルさばきもさる
ことながら、わざとらしいほどにキザな台詞にもしびれた。西部劇には欠かせない銃撃戦
も迫力満点。しかも、絶好のタイミングで登場するし。風景も美しい。音楽も実に素晴らし
かった。本編を見る前に、冒頭のタイトルロールに流れるメイン・テーマを聴いて既に感動
してしまっていたくらい。ほんと、この『荒野の七人』に関しては、全てが感動的であり魅力
的であったのだ。

七人のガンマンたちは皆カッコ良かったが、一番カッコ良かったのは、なんといっても
スティーブ・マックイーンだったろう。少なくとも僕にとってはそう。一気に彼のファンに
なってしまった僕は、この後彼の出ている映画は必ず見るようになる(といってもテレビで
なんだけど)。世間ではアクションスターというイメージで、決して名優とは言われていない
マックイーンだが、ちょっと煙たそうにしながら銃を撃つ姿が妙に男らしく感じられて好き
だった。あまり表情を変えない演技もいいな(つまり大根ってことか)。この映画では終始
ニコニコとしている。あまり殺伐とした雰囲気になっていないのは、実は彼のニコニコ顔に
よるものなのではないか、なんて思えて仕方ない。

他には、ナイフ投げの名人を演じたジェームズ・コバーンも印象的だった。こちらはとても
クールなキャラクターで、一度も笑わなかったのではないだろうか。マックイーンとは対象
的だ。七人のガンマンのキャラクター設定が分かりやすかったのも、この映画を一層魅力
的なものにした。いかつい顔して実は子供好きというチャールズ・プロンソンのキャラも
捨てがたい。

山賊に苦しめられる村人が町でユル・ブリンナーに用心棒を依頼し、それを受けた彼が
仲間を探す部分が、実は一番好きだったりする。ガンマンたちが最もカッコ良く感じられる
所だと思う。そして、役者たちの最大の見せ場でもある。

前述したが、音楽がこれまた素晴らしい。これがなければ、魅力半減だったろう。スケー
ル感溢れる素晴らしいスコアを書いたのはエルマー・バーンスタイン。実はまだ現役で
活躍しているのだ(最新作は『エデンより彼方に』)。アカデミー賞にも14回ノミネートされ
ている。僕が映画と同時に映画音楽にものめり込むようになったのは、このエルマー
・バーンスタインのスコアがあまりにも素晴らしかったからだ。『荒野の七人』に関しては
メイン・テーマのシングル盤(昔は映画のテーマ曲がシングルで発売されていたのだ)を
買った。サントラLPも友人に借りて聴いた。正に思い出の曲だ。

『荒野の七人』については書きたい事が山ほどある。ストーリーも人物造形も分かりやすく
て、画面も美しく、音楽もいい、監督も役者もいい、そしてとにかく面白くて後味もいい、
そんな僕の好きなタイプの雛形みたいな映画だ(要するに娯楽映画ってことね)。いや、
あの時『荒野の七人』を見てしまったから、映画の趣味・嗜好が決まってしまったのかも
しれない。それにしても、なんと罪深い映画だろう(笑) 初めて『荒野の七人』を見てから
約30年、未だにこの映画の呪縛から逃れられないでいるだなんて。

2003.7.15


File bQ

エアポート’75(1974年・アメリカ)
AIRPORT 1975
監督: ジャック・スマイト 
音楽: ジョン・カカヴァス 
出演: チャールトン・ヘストン、カレン・ブラック、ジョージ・ケネディ、リンダ・ブレア、スーザン・クラーク
    グロリア・スワンソン、マーナ・ロイ、ヘレン・レディ エフレム・ジンバリスト・Jr

この映画にもちょいとした思い出がある。小学6年の時のこと、母がテストで100点取っ
たら映画に連れてってやる、なんて言い出したのだが、自分でも100点なんて取れっこ
ないなんて思っていたのに、その直後のテストで取ってしまったのだよ、100点を。
正直言って驚いたよなぁ、我ながら。確か社会科だと思ったけど。ま、それで約束通り、
母が連れてってくれたのが『エアポート’75』だったという訳だ。封切り直後、1974年の
暮れだったと思う。冬休みに入ってたし。連れてって貰うにあたって、この映画を選んだ
のは僕。思えば、高校時代は映画三昧だったという母のこと、たまには映画でも見たい
なぁ、なんて考えていたのではなかろうか。僕はダシにされたのかもしれない。

で、まあ、この『エアポート’75』なんだが、当時流行っていたパニック映画にしてオール
スターキャスト(どちらも死語だ)である。航行中の旅客機の操縦席にセスナが激突し、
パイロットが重傷を負って操縦不可能になってしまった為、無線の指示を頼りにスチュワ
ーデスが代わりに操縦する、という話だ。そして、救助隊が飛んできて旅客機に乗り移り、
無事に空港へ帰ってきておしまい、という映画。スチュワーデス役のカレン・ブラックが
鬼気迫る形相で必死に旅客機を操縦する演技は正に迫真であったし、彼女の恋人でパイ
ロットのチャールトン・ヘストンがロープに掴まって旅客機に乗り移ろうとする場面は、
臨場感たっぷりで(比喩ではなく)手に汗を握ったものだ。ド迫力の音響も効果満点、
2時間がアッという間に過ぎ、小学6年生だった僕は大満足で、映画館を出てきたので
あった。一緒に見てた母はどうだったんだろう?

パニック映画というけど、当時だったら『スピード』も『アナコンダ』も『タイタニック』も
パニック映画と呼ばれていただろう。要するに極限下における人間の行動や心理を
描いた映画、ってこと。説明になってないか。ただ、当時(70年代半ば)はほんとに、
この手の映画が多かったように思う。『ポセイドン・アドベンチャー』のヒットがきっかけ
ではなかろうか。派手なセットを作ったり、有名俳優を総動員したり、特撮や特殊効果に
凝ったりして、話題を振りまいていた。こういう華やかで迫力満点の映画なら入場料の
価値は十分、というもの。とはいえ、同じ頃にパニック映画ブームに乗って封切られた
『サブウェイ・パニック』や『ジャガー・ノート』みたいに、一見地味な映画にも実は秀作が
あるので、あなどれない。

『スピード』と同じような物といっても、近頃みたいにテンション上がりっぱなしのハイパー
アクション物とは違い、あの頃のパニック映画はもうちょっと落ち着いて見れたと思う。
アクションシーンだけを見せるのではなく、普通の人間ドラマも挿入されていたし、ストーリ
ーもきちんとしていた。『エアポート’75』もその例に漏れず、非常に質の高い娯楽映画で
ある。何よりも、再見に耐えうる映画だ。初めて見た時はハラハラドキドキしてるだけ
だったけど、何年かして見たらドラマとしても非常に面白かった。うまく表現出来ないが、
“ちゃんと”作ってある、という感じなのだ。昨今のアクション映画は確かに面白いし、画面
に食いついて見てるけど、見終わったらそれきり、って感じ。また見たい、なんて気は起き
ない。残るものがないのだ。これは、作り手の意識の違いなのではと思う。善し悪しの
問題ではない。映画も使い捨ての時代になったという事なんだろう。なんか寂しいな。

2003.7.16


File bR

ゴッドファーザー(1972年・アメリカ)
THE GODFATHER
監督: フランシス・フォード・コッポラ 
音楽: ニーノ・ロータ 
出演: マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ジョン・カザール、ダイアン・キートン
    ロバート・デュヴァル、リチャード・カステラーノ、タリア・シャイア、スターリング・ヘイドン

好みの問題はあるだろうけど、間違いなくハリウッドを代表する傑作である。僕がこの
映画についてコメントするなんて、実は非常におこがましい行為なのだ(笑)

とはいえ、初めて見た時のインパクトは強烈だった。説明するまでもなく、イタリア系マフィ
アを描いた映画であり、相当に血なまぐさいシーンの連続なのだが(ジェームズ・カーンが
高速の料金所で蜂の巣にされるシーン、映画プロデューサーが愛馬の首と共にベッドで
目覚めるシーンが特に強烈)、反面移民というハンディを背負い、一族で助け合いながら
悪い事をしなければ生きていけないマフィアの悲しみがひしひしと伝わってきて、非常に
やるせない気持ちになった。アメリカなんて自由の国でも何でもないのだ、という事を知ら
されたような気になったものだ。

マーロン・ブランドやアル・パチーノが見せる寂しげな表情やニーノ・ロータによる切ない
メロディ、やや暗いトーンの画面が余計にやるせなさをつのらせる。はっきり言って
“希望”なんてキーワードはどこ探しても出てこない映画なのだが、それでも何度も見てし
まうのは何故だろう。

明るく楽しいのだけがハリウッド映画ではない、というきわめて当たり前の事に気づかさ
れた映画でもある。けど、コッポラ監督はとても正統派だと思うし、ストーリーも俳優たちも
カメラも音楽も、どれをとっても一流の、素晴らしい娯楽映画だ。正に“一家に一本(近頃
はDVDだから、一枚か?)”の、名画中の名画である。

2003.7.21


File bS

エクソシスト(1973年・アメリカ)
THE EXORCIST
監督: ウィリアム・フリードキン
音楽: マイク・オールドフィールド、ジャック・ニッチェ
出演: エレン・バースティン、クリス・マクニール、マックス・フォン・シドー、リー・J・コッブ
    ジェイソン・ミラー、リンダ・ブレア、キティ・ウィン

はじめての映画館で観た映画ってなんだったろう? 多分幼稚園か小学校低学年だった
はずだがそれが赤影だったかゴジラだったか白雪姫だったか東映まんがまつりだったか
はたまた東宝のほう(しつこい)だったか全く見当がつかない。洋画は小学校の中〜高学
年からだったとは思うが、これまたなんの記憶もない。バカな子供にせがまれるままに
せっせと映画館まで連れてった父親の苦労もこれでは水の泡である。(* ̄m ̄)プッ 
で、初めての「ホラー」。これはちゃんと記憶があるのだ!( v ̄▽ ̄) イエーイ♪ 
そ、それが『エクソシスト』なのである。(^^) 

あらすじなんて猿でも知ってるだろうから省略!(爆) 悪魔払いの話だよね。当時小学校
でも「エンジェルさん」(こっくりさんの天使バージョン)が流行ってたから、ストーリーは
何気に信憑性があった。(苦笑) いまやいっぱしのホラー好きとなってしまったが、当時
のJ少女はやはり人並みには怖かった。(^▽^;) でもいまいちストーリーの展開に解せな
い部分もあって、即、本を買って読んだ。ついでにサントラの「チューブラーベルズ」のドー
ナツ盤も買った。これではJのほうがエクソシスト少女だ。( ̄▽|||) もちろん、2のほうも
観に行ったさ!(笑) しかしあれはイナゴの記憶しかないなぁ〜(苦笑)

そして、時は流れ2000年。『エクソシスト/ディレクターズ・カット版』だ。当時カットされた
部分が出るってんで、なんだか無性に観たくなった。長女には『ダンサー・イン・ザ・
ダーク』を観させ(苦笑)、Jは一人でエクソシストを観たのである。・・・・正直、がっかり
した。(-。−;) カットされてたのがブリッジで階段を降りてくるシーン(←はっきり言って
笑える。カットしたのは正解だったと思う)だったとは・・・( ̄_ ̄|||) どよ〜ん  
ま、それでも昔よりも音響のいいキレイな映画館で、父親や彼氏なんぞいなくても一人で
腕を組みふんぞり返ってこれを観ることが出来たってことに「オトナになったなぁ〜♪」と
ちょっと嬉しかったりもした。ヾ(´▽`;)ゝウヘヘ

<ジャスミンさん 投稿日2003.7.24>


この『エクソシスト』が公開された時に、初めてオカルト映画というジャンルが登場したよう
に思う。それまでは怪奇映画と呼んでたような。今にして思うと、上手い名前を考えついた
ものだ。『エクソシスト』という映画自体、それまで怪奇映画と呼ばれていたどの映画とも
違った種類の“怖い”映画だったのだし。

公開されたのは、僕が小6の時。とにかく公開前から凄い話題だった。小学生向けの
マンガ雑誌にも『エクソシスト』の詳しいストーリーなどが掲載されるほど、巷の話題を
さらっていた。映画なんてほとんど興味ない父も、専業主婦だけどあまりワイドショーを
見ない母も、何故か『エクソシスト』の事はよく知っていた。

話題の焦点というか、皆が興味というか恐怖を感じたのは、この映画が実話に基づいて
いる、という点であった。普通の少女に悪魔が取り憑く、なんて狐憑きすら知らなかった
僕らには、実に新鮮な恐怖だったのだ。悪魔は絶対存在するに違いない、なんて僕は固く
信じるようになってしまったくらい。泉の側に聖母マリアが現れて病人に触れたら不治の
病が一瞬で治ってしまった、なんて奇跡の物語は全く信じられなかったくせに、悪魔の
存在は信じてしまうなんて、一体どういう子供だったのか?

当時は見たいような絶対見たくないような(何せ、アメリカで公開された時はあまりの恐怖
に途中で反吐を吐く客が続出、なんて事がマンガ雑誌にも書いてあったし)、よく分からん
感じを抱いていたが、後年テレビで見たらなんとなく拍子抜けした。ま、『エクソシスト』
以降刺激の強い映画はたくさん作られたし、僕自身も麻痺してしまったような所もあった
のだろう、そんなに気持ち悪くも怖くもなかったのだ。ラストだって、悪魔払いの神父が
自分の体に悪魔を乗り移させてから、飛び降り自殺するという、ややあっけないもの
だったし。悪魔って、それで死ぬのか、なんてぼんやり考えていた。実際はそんな単純な
物ではなかったと知るのはまだ先のことだ。

最初の刷り込みが強烈だった分、インパクトは今いち、というのが『エクソシスト』の印象。
でも、決してつまらない訳ではなく、ゲテモノ的な部分に意識が集中し過ぎて肝心の所が
ぼやけてしまったような感がある。やはり元祖“オカルト”だけあり、深いテーマを内包して
いる映画であった、のだろうと思う。

2003.7.24


File bT

天空の城ラピュタ(1986年・日本)
監督: 宮崎駿
音楽: 久石譲
声の出演: 田中真弓、横沢啓子、初井言榮、寺田農、常田富士男、永井一郎、糸博、鷲尾真知子
       神山卓三、安原義人

日本の映画界が世界に誇れるもの、それはアニメだと思う。洋画の世界ではアニメといえ
ばやっぱりディズニーで、そりゃ確かにアニメ映画の第一人者であるウォルト・ディズニー
氏の偉大な業績は認めるけど、細かい動きや顔の微妙な表情などが、ディズニー映画は
(というか、外国製アニメは)どうも物足りないのだ。それに、キャラクターたちも妙に
“濃すぎて”好きではない。ストーリーも大味だし。その点日本製アニメは素晴らしい。
海外に日本アニメのマニアが多い(外国版オタク、ってとこか)事からも評価の高さが
窺えるし、何よりも宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞を受賞した事が、
日本製アニメの素晴らしさを物語ってはいないか?

ただ、昔は日本で作られる劇場用アニメの大部分が、ヤマトとかドラえもんとかテレビ
アニメの劇場版で、オリジナルなアニメ映画は少なかったように思う。そんな中、オリジナ
ル脚本による劇場用アニメ(それも長編)を製作し、質の高さはもちろん、商業的にも
成功する、大人の鑑賞にも耐えうる作品をコンスタントに作り続けてきた宮崎駿氏の業績
は高く評価されるべきだろう。手塚治虫がマンガの可能性を切り開いた人だとするなら、
宮崎駿は長編アニメ映画を娯楽として定着させた人、という事になろうか。アニメはオタク
と子供の物だけではなくなったのだ。

数ある宮崎作品の中で、僕が最も好きなのが『天空の城ラピュタ』である。とにかくよく
出来た映画だ。ストーリーもいいし、映像も素晴らしい。登場人物たちもいいね。宮崎
作品には、勇気と知性に溢れた少年少女が出てくるパターンが多いように思うが、
『ラピュタ』に登場するパズーとシータの二人もとにかくいい。愛や情熱ではなく、あくまで
も友情で結ばれているのが、物語を潔いものにしていると思う。海賊の女親分ゾーラの
キャラも秀逸。ひたすら悪役のムスカも好き。ま、とにかく、この映画の第一の魅力は
登場人物にあるのは間違いない。

シータが持つ“飛行石”を巡って、大人の陰謀が入り乱れ、石の秘密を解き明かす方向に
ストーリーが収束されていくのも分かりやすくていいと思う。そして“浮かぶ島”、なんて
ロマンをかき立てられるキーワードだろうか。物語の舞台は外国みたいだけど、どこと
特定されていないので、却ってのめり込みやすい。適度にエキゾチックで、でも現実的で
はない、というのが凄くいい雰囲気を作っている。時代がいつなのかはっきりしないのも、
実は効果的だと思うのだよ。これ全て、宮崎監督の計算なんだろうか。

愛と冒険の・・・なんて陳腐なストーリーになってないのが、何と言っても素晴らしい。難し
い事は考えずに集中出来て、しかも感動的だなんてこんな素晴らしい事があるだろうか。
『ラピュタ』を見て何に感動するかは人それぞれだと思うけど、よく考えるとこんなに懐の
広い映画なんて、そうあるもんじゃない。はっきりとしたメッセージを発信していない分、
見た人がそれぞれの感性で楽しめる、これこそ正しい娯楽映画の在り方である。こういっ
ては何だが、近年の日本映画に欠けている全てが、この『ラピュタ』にはあると思ってしま
うのだ。

とにかく、何度見ても素晴らしい、名作と呼ぶにふさわしい映画である。

2003.7.26


File bU

パルプ・フィクション(1994年・アメリカ)
PULP FICTION
監督: クェンティン・タランティーノ
出演: ジョン・トラヴォルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ユマ・サーマン、ハーヴェイ・カイテル
    ティム・ロス、アマンダ・プラマー、マリア・デ・メディロス、ヴィング・レームズ、ブルース・ウィリス

タランティーノという人、やたらと評価が高いけど、そんなに凄い人なのだろうか。僕は彼
の監督作品はこの『パルプ・フィクション』しか見てないので何とも言えないけど、ちょっと
過大評価気味なのではないか、という気がする。確かに才人だと思うし、『パルプ・フィク
ション』がカンヌ映画祭でグランプリを獲得した事もあり、一気に評価が高まったのだろう
けど、このあとの作品は一般ではそれほど評判になっていなかったような記憶がある。
典型的な評論家ウケするタイプだな。マニア好みなのだろう。

だけど、『パルプ・フィクション』は文句なしに面白い。タイトルは安手のコミック誌の事だ
そうで、確かに構成は巧みなんだけどB級の香りがプンプンする。複数のエピソードを
組み合わせて一本の映画にしている訳だけど、始まりのシーンがラストのエピソードに
繋がってくるあたりは見事だと思う。一見バラバラな印象なんだけど、最後で筋が通ると
いう感じ。ここまで書いてて、なんとなく気づいた。タランティーノの特徴はB級の素材を
一流っぽく見せかける所にあるのではないか。要するにレニー・クラビッツみたいな人
なのだ。うむうむ、これならその人気も納得できる(笑)

この『パルプ・フィクション』、各エピソードがチープだけども印象的。個人的に一番好きな
のは、ジョン・トラボルタとユマ・サーマンがレストランでツイストを踊る場面なんだけど、
死体の始末をするトラホルタとサミュエル・L・ジャクソンも笑えるし、コカインの中毒で
昏睡状態のユマ・サーマンを蘇生させようと大騒ぎするトラボルタもまた面白い。裏切った
ブルース・ウィルスを追ってきたボスがウィルス共々捕まってオカマを掘られてしまう
シーンも無茶苦茶おかしいし。こういった印象的な場面の断片が積み重なって『パルプ・
フィクション』という映画を構築している訳だ。

全編でジョン・トラボルタが存在感を見せつけている。長い間低迷していた彼は、この
映画でアカデミー賞にノミネートされ、第一線に返り咲いた。その後は数々の映画で
印象的な演技を見せてヒットを飛ばしているのはご存知の通り。かつての勢いがなくなっ
た、いわば落ち目の俳優を再生させるのがタランティーノは好きらしくて、トラボルタは
見事に成功した。ここいらもB級マニアって感じがする。きっと、こういう所に手腕を発揮
する人なのだ。

タランティーノ監督をこれ一本で絶賛してしまうのは危険な気がするが、『パルプ・フィク
ション』自体はとにかく面白い。ふとした時に、無性に見たくなる映画だ。

2003.7.27